My life feels like an adventure. 国内最高峰アドベンチャーレースの舞台裏を支える男 上野 智一朗

NISEKO EXPEDITION

― 日本唯一のワールドクラスアドベンチャーレースの運営責任者をされているそうですね。

アドベンチャーレースとは、山、川、海など、各地の自然をフィールドに、2〜4名のチームで多種目なアウトドア競技をこなしながらゴールを目指すレースです。地図上に記されたチェックポイントを通過しながらゴールを目指し、距離や難易度はレースによってまちまちです。日本だと1日で終わるレースがほとんどですが、世界では2日間、3日間といったロングレースも多く、世界一過酷なアドベンチャーレースは10日間以上に及ぶものもあります。主な種目はトレッキング、マウンテンバイク、クライミング、カヤック、パックラフト、ロープワークなどがあり、ナビゲーションスキルだけでなく、さまざまなアクティビティに精通していることが求められます。NISEKO EXPEDITIONは日本最大級にして、日本唯一のワールドクラスのアドベンチャーレースです。ニセコのシンボルである羊蹄山と、日本海を望むニセコ連峰、美しい渓流とどこまでも続く緑豊かな広大な大地を舞台に、トータル200km、36時間のレースが繰り広げられます。海外トップチームとのバトルや、優勝チームへの海外レース出場特典も魅力のひとつです。私は運営責任者として2021年から参画し、NISEKO EXPEDITIONならびにアドベンチャーレースの普及に向けた取り組みを行っています。
*北海道ニセコで開催される36時間オーバー2ナイトの国内最高峰アドベンチャーレース(36時間・200km)

― 実際アドベンチャーレースに参加される方はどのような人なのですか?

最近は初心者の方や女性の参加者も増えてきました。アドベンチャーレースってハードルが高いイメージがあると思うんですけど、そのハードルを少しでも下げたくていろいろ趣向を凝らしています。例えば地図読みの勉強会や、パックラフト、マウンテンバイクの講習会の開催、NISEKO EXPEDITIONの登竜門として、女性だけのレース(JEANNE/ジェンヌ*1)やビギナー向けのレース(MiNi/ミニ*2)を新しい取り組みとしてスタートさせました。女性のアドベンチャーレーサーはまだまだ少ないですが、JEANNEに参加された方にはすごい好評で。これからもっともっと女性の参加者が増えていくと感じています。MiNiにはアドベンチャーレース完全初心者も参加してくれるようになってきて、スポーツの経験がない方はもちろん、地図読みなんてしたことがないという方も増えてきましたね。アドベンチャーレースは4人1チーム・男女混合が公式ルールですが、JEANNEとMiNiは2〜4人1チームで参加できるようにしています。また、レースには出てみたいけど身近に仲間がいないという方のために、チームマッチングの相談を行うなど、初心者だけど興味があるという人にも挑戦しやすい環境を作り、一人でも多くの方にチャレンジする機会を提供しています。誰しも初めは未経験なので、みなさんウェルカムですという発信を積極的にしていますね。
*1日本初女性だけのアドベンチャーレース(40km・7時間)
*2初心者向けアドベンチャーレース(40km・7時間)

アドベンチャーレースの世界観に魅了される

― 上野さんとアドベンチャーレースとの出会いを教えて下さい。

私が32歳のとき、当時営業職だったんですけどかなりのハードワークで、ある日体力の衰えを感じたんです。実は私はまったく体育会系ではないので、走るのは苦手だしジム通いも続かなくて、運動といえば休日にゴルフをするぐらいでした。このままだと体力的にしんどいし、何か運動をしなくてはと思い、そのときふと、父がよく登山に行っていたことを思い出したんです。すぐに父と連絡を取って「山に行きたいからいいところ教えて」と言うと「じゃあ一緒に行こうか!」となって、北アルプスに登りました。そうしたら、運動という意味ではもちろん、日々の仕事のストレス発散にもなって、大自然の中でのアクティビティに魅力を強く感じたんです。そこから年1回、そのうちに年2、3回くらい登山に行くようになりましたね。こうして山登りにハマってきたところに、20年来の友人である齊藤健一郎*1から一緒にアドベンチャーレースに出ないかと誘われて、二つ返事で出場を決めました。初レースは2019年に福島で開催されたエクストリームシリーズ檜枝岐大会*2でした。それをきっかけにマウンテンバイクやパックラフト、沢登りなど、いろんなことをやり出して、自然の中にこんなに面白い遊びがあったのかと、のめりこんでいきましたね。その翌年2020年には第1回NISEKO EXPEDITION(当時、ニセコアドベンチャーレース)に選手として出場しました。
*1参議院議員(現職)、NHKから国民を守る党
*2福島県楢葉町で開催。中学生以上であれば、誰でも参加可能

― アドベンチャーレースの魅力とは?

予め決められたコースがなく、地図を見て自分たちで道を決めて進むところ。それがアドベンチャーレースに初めて出たときにダントツで楽しいと感じたことでした。決まったコースがない、自分たちで道を切り開くって、ワクワクしかないですよね。地図を見て、自信を持って「ここだ!」って行ったところが全然違うんです。だから慎重にもなるし、かといって慎重になったところで正解とは限らない。失敗しても上手くいっても面白いんですよね。あの感覚はほかでは味わえない、アドベンチャーレースならではの魅力です。あとアドベンチャーレースって、人生や仕事にも大きな影響を与えると思うんです。例えばマラソンやトライアスロンは決まったコースがあって、言ってみればレールが敷かれています。でも人生って、本来は地図がなくて、正解がなくて、それこそが醍醐味じゃないですか。こっちのほうが安全かもしれないけど、こっちに行ったらもっと面白いんじゃないか。ひとつひとつの選択によって、ゴールまでの距離も違うし、経験できることも、その濃さも違う。間違えても軌道修正すればいいし、むしろ失敗の経験があるから次に活かせるんです。日本人ってルーティンやマニュアルをブラッシュアップしていくのはすごく得意ですけど、登山道から外れると危ないからと教育される環境で育ってきているせいもあって、人と違う道を行くことは苦手じゃないですか。でももっと自由に、もっと冒険心や遊び心があってもいい。むしろそれって必要なことだと思うんです。ひとつのことを極めるのもすごいけど、それだけではダメで。随時変化する環境の中で、フレキシブルに対応していく必要性があると思っています。実はアドベンチャーレースってこういう社会課題に通ずる部分もあると思っていて、この自然遊びというコンテンツを使って社会課題に挑みたい。そういうビジネス的な観点からも面白さを感じています。

― NISEKO EXPEDITIONの運営責任を担うことになった経緯は?

大会発起人の齊藤が政治家を目指すということもあり、後任を頼まれて受けたのがきっかけですね。もともとは第1回大会に選手として出場したんですけど、その翌年に主催者としてやってくれないかと言われました。齊藤と私は付き合いも長く兄弟のように身近な存在で、以前から「将来的に一緒に何かやりたいね」とずっと言っていたんです。だから特に何も考えず、軽い気持ちで引き受けちゃいました(笑)。実際イベント運営は初めてだったんですけど、やってみたらビジネス的なやりがいを感じて。これまで自分がサラリーマンとしてやってきたことが活かせるなと思いました。2年目になってからは、日本の大自然を活かしながらアドベンチャーレースを文化として根付かせ、マーケットとして確立していきたい、きちんとビジネスとして成立させたいと思うようになりましたね。

国内最高峰アドベンチャーレースの舞台裏

― NISEKO EXPEDITIONの企画運営は苦労の連続と伺いました。

軽い気持ちで始めたものの、まさかこんなに大変だとは思いませんでした。私はイベンターとしてトータルコーディネートをしていますが、資金調達や補助金の申請、中でも地域の根回しがかなり大変だと感じています。アドベンチャーレースではいろんなところを通るので、その土地が私有地だったり国有林だったり、とても複雑なんです。資料を作って町役場に行き役場の担当の方々からの協力を仰ぎ、そして官民連携で進めています。今年は大会エントリーをニセコ町のふるさと納税の返礼品に認定してもらったんですけど、そういう交渉も行っています。出張費も全部持ち出し、お金も時間もかかって想像以上に大変で、正直辞めたいと思ったこともありますよ。でも大変なのと同時に、アドベンチャーレースが持つポテンシャルにかけたいと思う自分がいました。将来的には地元企業の投資先になると思うし、地域貢献にも繋がっていくと思うんです。ただ、今すぐにはまだまだ厳しいですね。私が恵まれているのは、アドベンチャーレースの一番のコアとなるコースクリエイトとマネジメントを担ってくださる方がいて、その方を中心に日本のアドベンチャーレース界を支えてきたレジェンドやベテラン勢がエキサイティングなコースづくりと、その安全運行を実現してくれていること。これがなければそもそもレースは開催できません。アドベンチャーレースって、実は日本でも25年の歴史があるんですよ。でもみんな全然知らないし、はっきり言ってマイナーです。だからもっと知ってもらわないことには広がっていかないんですよね。私はアドベンチャーレーサーという意味では初心者に近いですが、だからこそ気づける視点があるかもしれません。初心者の方の不安もわかるし、どんな情報を知りたいのか、どうしたらもっと興味を持ってもらえるか、どうしたらもっと楽しめるか、そういうところから企画を生み出しているんです。トークイベントや地図読みの勉強会、挑戦のハードルをぐんと下げたレースの企画・運営をすることで、アドベンチャーレースに参加する人を一人でも多く増やしていきたいですね。

― 余談ですが、海外基準のレースを体験するべくIRONMANレースにも挑戦されたそうですね。

NISEKO EXPEDITIONを運営していくにあたり、当初から海外基準のレースを目指していました。海外はイベント作りがすごく上手なので、やるからには実際に体験したくてIRONMANレースに出場したんです。初めてのトライアスロンは一昨年前のIRONMAN Carinsで、無事完走できました。ランは苦手なのでトレーニングはスイムだけでしたけど、山登りが体力のベースを作ってくれたと思います。初トライアスロンがIRONMAN、しかも一人海外参戦とかなかなかクレイジーですよね(笑)。昨年はIRONMAN Portugalに挑戦しましたが、惜しくもDNFという結果に終わりました。

アドベンチャーレースとの出会いが人生を変えた

― 平日は会社勤務のフルタイムのサラリーマンと伺いました。

普段は外資系コンサルティング会社でサラリーマンとして働いています。よくいろんな人からサラリーマンぽくないって言われるんですけど、実はバリバリのサラリーマンなんですよ(笑)。もともと私は日本で大学に行っていなくて、掛け持ちでアルバイトをするフリーターだったんです。でも20歳のときに人生を見直す機会があって、真面目に勉強しようと思い父親に相談したら、アメリカの大学に行ってみたらって話になって、英語も話せないまま渡米しました。大学に併設している語学学校に通ってから大学に入ってビジネスを学び、無事に卒業して帰国。新卒は27歳のときでした。電機メーカーに入社して営業を11年、それから現在の会社に転職しました。経歴含めサラリーマンぽくないと言われますが、もちろん平日の仕事も全力でやってますよ。

― フルタイムワークしながらアドベンチャーレースの運営??

サラリーマンの仕事を終えた平日の夜や週末を使って、アドベンチャーレースのイベンターの仕事をしています。イベントの資料を作ったり、段取りしたり、寝る間も惜しんでやってますね。平日勤務している会社はプロジェクトワークベースのコンサルなので、先のスケジュールが立てにくいんですけど、前職の営業のときはルーティンで、年間のスケジュール感がわかるから動きやすかった。サラリーマンって働き方によっては、平日や週末とか時間の使い方を計算しやすいんですよね。ここは会社員として、ここは自分のやりたいことってきちんとスケジューリングできる。ということは、サラリーマンでいながらイベンターの仕事もやれると思うんです。NISEKO EXPEDITIONが大きくなったとしても、ダブルワークは続けたい。それって面白いキャリアだと思いませんか。別にコンサルをずっと続けたいわけではなくて、アドベンチャーレースを通じて、日本の自然を使った遊び方や時間の使い方を提供するサービサーになっていきたいんですけど。でも新しいサービスや事業を作るのは、サラリーマンをやりながらでもできるんじゃないかという仮説を、自分自身で試したいんです。いつか自分のような人を見て、一念発起してサラリーマンやりながら面白いことやってやろうっていう人が増えたらなと思っています。

― 上野さんにとってアドベンチャーレースとは?

すごいカッコよく言うと、可能性でしかないですね。アドベンチャーレースは、今後の日本を元気にするコンテンツだと思っているので、今はその可能性に自分の時間とお金をすべて賭けています。NISEKO EXPEDITIONは今後、国内最高峰の、海外の人がこの大会に出たいと言って集まるレースにしたいんです。そこまで広げていくために、海外との交流をキーワードに、いわゆるガチ勢の海外チームも積極的に受け入れています。去年は香港のチームと、アメリカ・ヨーロッパの混合チーム。今年はマレーシアのチームとオーストラリアのチームが参加予定です。日本にいながら海外チームと戦える環境が作れると、日本人にとっても刺激的で面白いじゃないですか。そうやってみんなが目指す大会にしたいんです。トライアスリートがIRONMANを目指して海外に行くみたいに、NISEKO EXPEDITIONも大手企業がスポンサーについて、国内外のアドベンチャーレーサーたちが「目指すはニセコだ!」って目指して来る、大きな大会にするのが目標ですね。そうなることで自然遊びがもっと身近になり、アクティビティが盛り上がる。小さいレースにも人が集まり、沢登りやクライミング、パックラフトっていう各地のアウトドアフィッターのところにみんなが遊びに行くようになって、ガイドやインストラクターという職業できちんと生計を立てられる。大会のスタッフはきちんと報酬がもらえて、アドベンチャーレーサーを目指す子供が出てくる。そういう未来を描いているんです。アドベンチャーレースをただのスポーツとして盛り上げるのではなく、日本を元気にする一大マーケットとして発展させていくことに人生をかけています。

【商品Pick up】UTA SUPLI を飲みはじめて―

昨年IRONMAN Carinsに挑戦したときからずっと愛用しています。今も寝る前の摂取は欠かせません。NISEKO EXPEDITIONのイベンターの仕事は多岐にわたるので、まさに「NEVER SLEEP」。(笑)やりたいことに溢れているので、寝る暇がないのが本音です。そんな中、疲労回復効果抜群のUTA SUPLIには本当に助けられています。UTA SUPLIは人生の密度を濃くしてくれるサプリです!

上野 智一朗

私のタイムスケジュール

スケジュール
スケジュール

私の記録

21~現在 NISEKO EXPEDITION 運営責任
2023年 IRONMAN Portugal (DNF)
2022年 IRONMAN Cairns(トライアスロンデビュー戦 完走)
2021年 エクストリームシリーズ奥大井大会(リタイア)
2020年 エクストリームシリーズ奥多摩大会(14位)
2020年 奈良吉野アドベンチャーゲーム(13位)
2020年 ニセコアドベンチャーレース(7位)
2020年 エクストリームシリーズ那珂川大会(12位)
2019年 エクストリームシリーズ奥大井大会(優勝)
2019年 エクストリームシリーズ檜枝岐大会(5位)