ワクワクする気持ちを大切に トレランとトライアスロンで頂を目指すトップアスリート 竹内 香織

トレイルランナー憧れのMt.Fuji 100mi

― 今年(2024)、Mt.Fuji 100miに出場されたそうですね。

Mt.Fuji 100miは、富士山周辺の美しい自然環境と過酷な山岳地帯を舞台にした約160km(100マイル)のレースです。累積標高差は7,500mを超えることもあり、天候も変わりやすい。経験豊富なトレイルランナーにとっても挑戦的なコースで、日本国内だけでなく、世界中からすごいランナーが集まります。ランニングやトレランをしていると、周りにすごい人たちがたくさんいて、Mt.Fuji 100miに出場している人もいたんです。話を聞いたりしているうちに、いつか自分も挑戦してみたいと思い始めて、それがきっかけで出場を目指しました。出場するには一定の距離と難易度のレースを完走した実績(ITRAポイント)が必要なので、まずはいろんなレースに出てポイントを獲得して、出場までに2年かかりました。挑戦するランナーは圧倒的に男性が多くて、女性は全体の15~20%の割合でしたね。年々増えてはきているようですが、まだまだ女性の参加者が少ないのを肌で感じました。

― 実際に出てみてどうでしたか?

トレランの100マイルは初だったんですが、予想外のことがいろいろありましたね。補給のタイミングや休憩の取り方もそうですけど、呼吸やペースのことは、事前にそこまでは考えていませんでした。短いレースだと勢いでいけちゃうところもあるけど、やっぱり長丁場となると同じようにはいかないですね。もう少しペースを抑えたほうがよかったかなとか、今までには思いもしなかった課題が出てきて、もっと対策や準備が必要だったと感じました。

― レース中は同じアスリートのご主人がフルサポートされたそうですね

サポーターに来てもらえる指定のエイドがあるので、夫にはそこで待ってもらっていました。行動食を補充したり、お味噌汁とおにぎりを準備してもらったり。やっぱり「夫が待っている」という気持ちはどこかにあって、そのエイドまではしっかり行こうというモチベーションになりましたね。そこに行けばなんとかなると思えて心強かったです。お互いアスリートなので、して欲しいこととか、余計な声掛けはしないとか、なんとなくそのときの空気で感じ取ってサポートしてもらえるのが助かります。残念ながら今回は122kmでDNFしたんですけど、それも夫と一緒に話し合って決めました。深夜0時にスタートして、途中仮眠を取りながら26時間走ったんですけど、1時間ぐらい休憩してどうするか話し合って、そこでやめようという決断に至りました。今シーズンはまだまだトライアスロンも含めてレースにいっぱいエントリーしていたし、ここで無理するのは得策じゃないよねということになったんです。私一人だけでは冷静に判断できなかった可能性もあるので、一緒に先のことを考えた決断ができて良かったと思います。

― 夜中に1人で走って、怖いと感じたり、意識が朦朧としたりしませんでしたか?

基本的には前に誰かしら走っているので、光を目指していけば大丈夫なんですけど、それでもどこかで1人になるタイミングは出てきちゃうので、そのときはちょっと怖かったですね。何かが出るという恐怖よりも、本当に道が合っているのか、コースアウトしていないかの不安が大きかったです。コースには200mおきに印が出てくるので、びくびくしながらもそれを探しながら進みました。意識朦朧とまではいきませんでしたが、後半、まっすぐ走っているつもりでも実はフラフラと蛇行してしまっているときがあって、身の危険を感じましたね。崖から落ちたらと思うと怖くて、山側を走ろうと意識を集中させて走りました。

チャレンジに性別や年齢は関係ない!

― 学生時代から走るのは得意だったんですか?

中学生のときはバスケ、高校に入ってからはバドミントンをやっていて、当時から走るのは好きでした。運動部で体力があったし、部活で走りまくっていたので足が速くなって、持久走も陸上部より速かったです(笑)。大学とか社会人になってからも走ってはいたんですけど、ダイエット目的で走ったり、気が向いたときにちょっと走るというくらいでした。約10年前に、一度フルマラソンに出てみようと思って名古屋ウィメンズマラソンに出たんですけど、初マラソンで3時間40分でゴールして、周りがびっくりしていましたね。その1年後は、3時間37分、次はサブスリーかなと思っていたけど、そのときはまだ3時間半は切れなかったです。

― 会社内のランニングサークルに誘われたのがきっかけでランニングにはまったそうですね。

5年前に社内駅伝があって、女性同士集まって走り出したのがきっかけでした。その中にかなり速い先輩ランナーがいて、その人に憧れて本格的に走り始めましたね。もともと走るのは好きでしたけど、そのとき私は30歳を過ぎていて、この歳でそんなにガシガシやってもな、という思い込みがありました。でもその方は実業団のトップランナーぐらい速く、多くの大会で入賞していて、きっと昔から陸上をやっていたんだろうなと思っていたんです。でも実際に話を聞いてみると、子供を産んで30歳半ばで走り始めて、今40歳半ばだというからびっくり。「今のあなたよりも歳を重ねてから走り始めて、それがきっかけで今はロードだけではなく山も走ってるよ」って言われて、年齢で言い訳している場合じゃないなと思いましたね。その先輩はサブスリーランナーだったので、自分も今からでも頑張ればもっと速くなれるんだと思って、どんどんハマっていきました。そして本格的に走り出した2年後の大阪国際女子マラソンで2時間56分、私も念願のサブスリーを達成しました。ランニングを始めて、いろんな人と出会えて、刺激をもらえて、目標を達成して、また次の目標ができて。挑戦するのに年齢や性別は関係ないことを実感しました。

トライアスロン挑戦がきっかけで結婚

― 3年前(2021)からトライアスロンもやられているそうですね。

母が他界してしばらく経って、気持ちが落ちたままではいけないので、何か新しいこと、夢中になって打ち込めるものが欲しいなと思っていたんです。私はやってみたいなと思うことを気軽にメモする感じで「やりたいことリスト」のようなものを書いているんですけど、サハラレースに出たい、海外のレースに出たい、トライアスロンのレースに出たい、などいろいろと書いていて。その中で1番ハードルが高そうなものをやろうと思って、トライアスロンに挑戦することにしました。知ってはいるけどやったことはない、お尻が痛くなりそうな自転車に乗らなきゃいけないし、泳がないといけない。そのときの自分にとっては最もハードルが高いと感じたんです。また、山を走る仲間にも数人トラアスロンをやっている人がいて、「カナヅチじゃないなら絶対トライアスロンをやったほうがいい」と強く勧められたこともきっかけになりましたね。やっていくうちにどんどんのめり込み、ここ最近ではトレランよりもトライアスロンのレースにいっぱい出ているかもしれません(笑)。昨年(2023)は、佐渡国際トライアスロンBタイプ*1で女子総合4位、今年はアジアトライアスロン選手権*2と、蒲郡オレンジトライアスロンで女子総合準優勝という結果を残せました。
*1 スイム2.0km、バイク108km、ラン21.1km
*2 2024年4月 広島県廿日市で開催

― ご主人との出会いはトライアスロン挑戦がきっかけと伺いました

トライアスロンをやると決めたはいいけど、何をどうやって始めたらいいのかまったくわかりませんでした。とりあえず初めに自転車だけ買ったんですけど、何をすればいいのか、どこでどうやって練習するのかもよくわからなくて。どうしようかと思っていたら、同じ会社の竹内真さんが2019年にトライアスロン世界選手権*1に出場したすごい選手だということを思い出したんです。会ったことはあるけど直接話したこともないのに直接LINEを送って、飛び込みでコンタクトしたのが始まりでした。「トライアスロンをやりたいんですけど、どこかで教えてもらえませんか」って聞いてみたら、自分が練習で行っているところに来てみたらと言ってくれて。それから“あすたまトライアスロンスクール”*2で一緒に練習をしたり、日程を合わせてバイクで一緒に走ったり、トライアスロンのことを教えてもらううちに距離が縮まっていきましたね。
*1 ローザンヌ(スイス)で開催 ITU世界エイジグループトライアスロン選手権
*2 竹内鉄平さんが主宰の愛知県拠点のトライアスロンスクール

仕事の昼休憩時間もトレーニングに活用

― トレーニング時間はどのように確保されているんですか?

朝スイムをして、仕事のお昼休憩に走るのが基本的なルーティンですね。日によってはさらに夜走ることもあります。よく朝のランニングが日課という人がいますけど、私はそれがお昼のランという感じです。うちの会社はお昼休憩に走る人が多くて、12時を過ぎると会社からマラソン大会のように人がどんどん走り出します(笑)。1時間の休憩時間に、長い人だと6キロぐらい走って、残り5分か10分でご飯を食べて、着替えて、仕事に戻るんです。週末は夫婦で“あすたまトライスロンスクール”でバイクに乗って、そのあと山を走っています。お互いフルタイムで働きながらトレーニングもしているので、家事はそのときやれるほうがやって、お互いに尊重しながらいいバランスでやっていますね。

― ランニング教室のコーチもされているそうですね。

名古屋市内の公園で、月に2回ほど夫と一緒にランニングのコーチングを行っています。参加者にはアップ、ランニングドリル、フォームの指導を通じて、効果的な走り方を学んでもらい、みんなで楽しく走る時間を提供しています。ロードだけでなく、公園内のちょっとしたトレイルコースを走ることもあり、様々な地形に対応したトレーニングができます。さらに、オンラインでも体幹トレーニングの指導を行い、参加者がより健康的でパフォーマンスの高いランニングを楽しめるようサポートしています。コーチングをする中で、自分の感覚的な部分を言語化して伝えるのが難しいと感じることもありますが、参加者の方に「楽に走れるようになった」「来てよかった」と言ってもらえるのがとても嬉しくて、それが最大のモチベーションになっていますね。本格的にコーチングを始めてからまだ数ヶ月なので今は数名程度の参加ですが、今後はもっとたくさんの方と一緒に走る楽しさを共有していきたいです。

― コーチングを始めたきっかけは何ですか?

社会人になってから本格的にランニングを始め、良いタイムが出せるようになったり、新たな仲間と楽しい時間を過ごすことができました。これがきっかけで、同じような場を他の人にも提供したいと考えるようになりました。大人になると、仕事や家事、子育てに追われ、他人のために生きていることが多いと思います。忙しくて自分のための時間を持てず、努力が認められないこともあり、幸せや満足感を感じにくいのではないでしょうか。そういう人が多いと日々感じていたので、もっと自分自身のために時間を使うべきだと思ったんです。自分がやりたいことを楽しむことで心に余裕が生まれ、それによって人にも優しくできるようになります。そんなポジティブな連鎖を広げていきたいんです。自分の時間を楽しんでいる人は、若々しくて輝いて見えますよね。私が楽しいと思うことを全力で取り組み、同じ目標を持つ方々にその楽しさを伝えることで、自己実現のサポートができたらと思っています。
いずれは、私がコーチングした人たちの中から大阪国際女子マラソンなどのハイレベルな大会に出場できる選手を育てたいという思いもあります。私自身が様々な大会に参加し、その度に「こんな世界があるんだ」と感動した経験がたくさんありました。そうした素晴らしい経験を他の人にも味わってもらいたいんです。マラソンだけでなく、過酷なトレイルランニングのレースを完走できる選手を増やすことにも貢献できたらと考えています。
* フルマラソン3時間7分以内の記録保持がエントリー条件

ワクワクする気持ちを大切に

― 新しいことにチャレンジすることの原動力とは?

基本的に、何個か道があったらワクワクするほうを選ぶようにしています。やるやらない、どちらも自分で決められる。「やらない」選択もできるけど、「やる」を選んだらどうなるかを想像して、面白そうなら「やる」を選びますね。決めるときの基準は、自分がよりワクワクするほうを選ぶこと。やったらやったで辛いときもあるんですけど、辛かったらまたそのときにどうするか、辞めるか続けるか選べばいいんです。やってみることで新しい発見があって、新たな知見が生まれて、知識が深まったりするじゃないですか。だからやらないよりやって後悔するほうがいいってどこかで思っている気がします。目の前に扉があって、その先にワクワクするような世界があるかもしれないと思ったら、開けてみたいんです。その後のことは開けてからまた考えればいいので、開けないで通り過ぎるのはもったいない気がしちゃうんですよね。新たな扉を開くことで、いろんな出会いがあったりして、面白いことに繋がると思うんです。

― 今後の目標は?

近いところでいうと、今年は佐渡国際トライアスロン大会と、今治伯方島トライアスロンに出場予定なので、少しでもいい成績が残せたらと思っています。また、いずれは海外のレースに挑戦したいという気持ちもありますね。やりたいことリストにあるのは、UTMB*1です。書くだけはタダなので、いずれ叶ったらいいなという感じですね。夫は、トライアスロンのショート*2でまた世界選手権に出られたらと思っているようなので、夫婦それぞれの目標に向けて、今後も挑戦を続けていきたいと思っています。
*1 ウルトラトレイル・デュ・モンブラン 世界最高峰のトレイルランニングイベント
*2 オリンピックディスタンス(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)

― 1つは同じ、1つは別競技のアスリート夫婦として、これからもお互いに高め合っていくんですね。

別競技ではありますが、お互いの目指しているものが全然違うわけではないので、今後もそれぞれのやりたいことを尊重しながら、サポートし合ってやっていけたらいいなと思います。出てみたいレースには果敢に挑戦し、それに向けての練習も、一緒にできるところはしていきたいですね。私はトレランもトライアスロンもやりますけど、両方やってみたら、まったく別物の競技ではありながら、同じ方向を向いているとわかったんです。だから山を走る練習もお互いにとって無駄ではないし、トライアスロンの練習をしているから山が走れなくなるわけでもない。むしろその逆で、この自転車の動きと山の動きが一緒だなとか、繋がっているのがわかって、さらに面白みを感じています。別の競技であっても共通する部分はある。アスリート同士の夫婦だからこそのシナジー効果が、今後も発揮されるといいなと思っています。

【商品Pick up】UTA SUPLI を飲みはじめて―

仕事とトレーニングを両立するためには練習後にUTA SUPLIを摂取して、しっかりとリカバリーし翌日の仕事に備えることが重要だと考えています。私たち市民アスリートの多くが、週末のハードトレーニングやレースがあっても翌日の月曜日から仕事です。仕事が充実するからこそ、趣味が楽しめるので、仕事も全力でやりたい私にとってUTA SUPLIは大切なパートナーですね。

竹内 香織

私のタイムスケジュール

スケジュール
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私の記録

2024年 蒲郡オレンジトライアスロン 女子総合2位
アジアトライアスロン選手権(廿日市)エイジグループ 女子総合2位
Mt Fuji100 DNF
2023年 佐渡国際トライアスロンBタイプ 女子総合4位
天草宝島国際トライアスロン 女子総合2位
JTUトライアスロン スタンダード ポイントランキング2位 女子35-39歳
大阪国際女子マラソン 2:56:50
奥三河パワートレイル  女子総合4位
富士登山競争 山頂コース 女子30~39歳の部3位
奥信濃100 女子総合8位 39歳以下の部1位
2019年 伊勢の森トレイルレース 女子総合4位
経ヶ岳バーティカルリミット 30代女子2位
2018年 経ヶ岳バーティカルリミット 30代女子1位